2011年12月30日金曜日

日経サイエンスより: がんワクチン新時代

日経サイエンス」という雑誌があるのをご存じでしょうか。

この雑誌は、米国のScientific Americanという一般向け科学雑誌の翻訳ですが、とても高い水準で編集されており、素晴らしい雑誌です。科学者や技術者だけでなく、知的読み物を楽しむ多くの人に愛されています。面白いところでは芥川賞作家にはこの雑誌を購読している人が二人もいるそうです。

今の時代、すべての知的職業人は科学的思考法を身につけるべきだと私は考えます。世の中に氾濫する情報から嘘を見抜き、有効性のある行動や思考をするためには、科学的思考法なくしては不可能です。この雑誌の記事は、原則的に科学的手法に基づいて書かれていますので、自然に科学的思考を身につけることができます。

この雑誌からは、科学的思考法だけでなく、知的な文章を書く方法、知的な議論をする方法を学ぶこともできます。日本語で読める定期刊行物としては、最も知的水準の高いものではないかと考えます。

全ての日本人は「日経サイエンス」を定期購読すべし! と私は強く推薦します。私は中学生の頃からこの雑誌をずっと読んでおり、知的発達に大いに役立ちました。自分のためにも、お子さんのためにも、この雑誌をぜひ購読しましょう。書店にも置いてありますので、まずは書店で一冊買ってみてください。少し難しい記事もあるかと思いますが、その骨太の知性こそが知的発達につながるのです!

さて、宣伝文句だけつらねていても説得力がありませんので、これから折に触れて当ブログ上で「日経サイエンス」の記事の紹介をしていこうと思います。

今日は2012年1月号より「がんワクチン新時代」という記事を紹介します。


癌の免疫療法というものは長らく研究が進められていましたが、これまでは残念ながらほとんどうまくいった例はありませんでした。癌の免疫療法というものは、人間の持つ免疫系を刺激して、それによって癌を攻撃するというアイデアですが、これまでの試験結果は落胆に終わるばかりで先行きが極めて危ぶまれていました。

それが2010年に米国でプロベンジという初の癌治療用ワクチンが承認されたことで変わってくる可能性が見えてきました。

ターニングポイントとなったのは、2002年の発見でした。患者の体内から癌細胞を取り出してそれをヘルパーT細胞に憶えさせて、そのT細胞を大量に培養して、体内に戻したところ、癌が大きく縮小したのです。それまではキラーT細胞のみを増殖させていましたが、その方法は失敗に終わっていました。この発見により、キラー細胞とヘルパーT細胞の両方を刺激すれば、癌を殺せるということが分かりました。

プロベンジも、患者の体内の免疫細胞を取り出して、それに癌細胞の断片を攻撃するよう教え込ませて、それから体内に戻すという手間のかかる方法をとっています。問題はその費用で、生存期間を4ヶ月延長するために750万円の費用がかかるのです。

他の製薬会社では、癌細胞に特徴的なタンパク質の断片(ペプチド)を作りだし、それを患者に投与する方法を模索しています。この方法であれば、多くの患者に共通のペプチドを使うことができるので、コストは大幅に安くなります。

この記事は、実際に癌ワクチンを開発している会社の社長が書いているので、臨場感があり、面白い記事でした。

日本版のみのコラムでは、大阪大学が開発しているWT1ペプチドワクチンが紹介されていました。これは多くの種類の癌に効く可能性があるワクチンで、既に国内で臨床試験に入っており、これまでのところ有望な結果が得られているそうです。

注: 誌面では「癌」ではなく「がん」という表記が使われていますが、本記事中ではPC上で読みやすくするため、癌という表現を使いました。医学的には「がん」という表記のほうが広く使われています。

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