2012年10月18日木曜日

ARM社のビジネスモデルとIntelの将来


現在のスマートフォンやタブレットの大半はARM社のプロセッサで動いているのをご存じでしょうか? iPhone, iPad, Kindle, Nexus 7も例外ではありません。

ARM社は、製造設備を一切持たない半導体企業です。しかし、ただのファブレス企業ではありません。ARM社は、自社でプロセッサを製造販売することは一切なく、プロセッサの設計図を他社に販売して稼いでいるIP(知的財産)ベンダーなのです。

ARM社からCPUの設計図を購入したSamsungやTexas Instrumentsなどのメーカーは、CPUを自社で好きなようにカスタマイズして、自社や委託工場(ファウンドリ)でプロセッサを製造して利用したり外販したりします。


ARM社の強みは二点です。

一つには、ARMは低消費電力CPUに特化していることです。モバイル機器では、消費電力が最も重要な要素です。最近では、サーバーやノートPCでも消費電力が重要視されるようになってきました。

もう一つには、ARMは組み込み向けSoC(System on Chip, 統合型プロセッサ)に強みを持っていることです。SoCは、メモリ管理・ビデオ・ネットワークなどの周辺回路をCPUのチップに取り込むことで、実装面積の低減、消費電力の低減、コストの削減を実現します。これはモバイル機器に極めて重要な要素です。

ARMはカスタマイズ可能なCPUの設計図を販売していますので、購入したメーカーは独自の周辺回路や他社から買った周辺回路などを一つのチップにまとめて製造することができます。これはIntelのようにCPUを製造販売している企業には不可能な芸当です。

いくらIntelが強力な企業であっても、一社で全ての周辺回路を開発することはできませんし、多種多様なチップを製造販売することは困難です。

これがIntelのビジネスモデルを大きく脅かしています。


スマートフォンやタブレットは、PCの領域をどんどん切り崩していますし、今後もその流れは止まらないでしょう。そのうえ、ARMプロセッサは十分に進歩しており、今後はPC用としても使われるようになるかもしれません。

初心者ユーザーにとっては、複雑で使いこなすのが難しいWindowsやMacOSのPCよりも、AndroidやiOSのような使いやすいOSを好むのではないでしょうか。そうなれば、キーボードの付いたAndroidノートPCなどが市場に進出してくるのも時間の問題でしょう。

何よりIntelにとって恐ろしいのが、サーバー分野へのARMプロセッサの進出です。

先日、私がIBM BlueGene/Qの記事でも述べたように、サーバー領域においても消費電力や実装密度などが重視されるようになっています。System on Chipによる消費電力と実装密度の向上は、サーバー分野でもどんどん活用されていくでしょう。

サーバーは、PCと異なりWintelの牙城ではありません。Linuxさえ動けば良いという世界です。

数年後には、低価格サーバーというのはSoCのCPUとDRAMとSSDが一つの基板上に実装された、小さなカードのようなものになっていることでしょう。一つのサーバーラックに数千~数万のサーバーノードが実装され、仮想化というのは、サーバー資源の切り分けではなく、単なる管理用・可搬性向上の機能になるのではないでしょうか。(スケールアップよりスケールアウトが容易なことを考えれば、仮想化によるサーバー集約というのはコスト効率の劣る方法です。)

そのときに、サーバーでの勝者はIntelになるのかARMになるのか、興味深いところです。GoogleやAmazonのように大量のサーバーを必要とする企業はARM寄りになるかもしれませんね。

追記: (2012/10/21)

HPはすでにそのようなSoCサーバーを試作しているのですね。1Uあたり72ノードとのこと。おそろしや。

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